「 新雪をラッセルして登った山は毎回『初登頂』である 」
2月号「岳人」にこんな内容の記事が載っていた。
この記事の概要はこんなところだ。
『トレースのない雪山は、たとえそれが1000mに満たない低山であっても
登頂をしようと思うと困難を要する。
無積雪時ならあるはずの案内板や道標のすべてが雪の下。
頼れるのは地図とコンパス(今は高度計やGPSも)のみ。
地形を頭の中で創造し、ルートを構築する。
そして目指す方向を確認し、目標物に照らし合わせる。
朝一番で望んだルートにトレースがあるとがっかりしてしまう。
運良く一番ラッセルを勝ち取った時には、膝上までのラッセルに苦労しながら、
一歩一歩トレースを刻み、その苦労をした者だけが、
「雪山の初登頂者」となれるのである。』
だいたいこんな内容の記事だ。
ラッセルこそが雪山の醍醐味なんだといわんばかりの記事なのである。
そしてこの記事を読んだ瞬間、私の頭の中には、はっきりとしたものが見えてきた。
今の自分が冬山を楽しいと感じるのは、
この記事にあるようなラッセルのある雪山なんだと。
そんな「楽しいラッセル」
昨年は冬の金沢・医王山で堪能した。医王山は標高わずか939mである。
それでも北陸の低山はラッセル天国だった。
今年の大峰は雪が少なく、降雪直後のタイミングにも巡り合えておらず、
まだ今冬は満喫出来ていなかった・・・積もる欲求不満?
そして時は来た。
2月24日早朝、我々二人は鈴鹿山系の最高峰・御池岳の三重県側登山口にいた。
今回ご一緒いただいたのはゆずさん。ここ最近は3連続でご一緒だ。
AM7:05 いなべ市藤原町山口の国道306号冬季通行止めゲートを出発。
今回のコースはこちら
ここからコグルミ谷右岸尾根取付きまで通常なら1時間ほどの国道歩き。
しかし、すでに路面には10㎝以上の積雪。
幸い、工事車両だろうか轍があるのでしばらくはアイゼンなしで歩いて行く。
やがてその轍もなくなり、路面の積雪は40㎝近くに。
予想外の国道歩きでのスノーシュー装着となった。
AM8:40 コグルミ谷右岸尾根取付き到着。
雪の国道歩きのために1時間40分もかかってしまった。
現在、コグルミ谷は崩壊が激しいという。
それでなくてもこれだけの積雪があると、谷を歩くよりは尾根を歩く方が楽だろう。
「山と高原」地図にはない右岸尾根のルートを辿ることに。
国道の法面養生のコンクリート壁があるため、
少し尾根を回り込んだ小さな堰堤のある谷を登り詰め、
右岸尾根に登るルートを取る。
取付きから急勾配のラッセルが始まった。
膝を使い、ステップを作っていく。
全身雪まみれになりながらも着実にステップを刻んでいく。
まだ標高が低いのでウェアに着いた雪が解けて水なり、撥水性の悪い箇所や
トレッキングポールのストラップやグリップに沁み込んでいく。
30分ほどかけてようやく尾根に上がった。
ここから先は尾根沿いにわかりやすいルートが続くが、依然ラッセルは続く。
雪面に突き刺すトレッキングポールは吹き溜まりでは2段目のジョイントを越え
グリップ近くまで埋まってしまう。
急斜面では腰ラッセルになってくることも。
トレッキングポールを胸の前で両手に持ち、目の前の雪の壁を崩す。
膝で雪を固め、ステップを作る。
photo by yuzu-san
最初は調子の良かった足も、やや疲れてきたようなので
トップをゆずさんに代わっていただく。
ゆずさんも着実に急斜面にステップを刻んでいく。
その頃、後続の二人組の方たちが追い付いてきて、休憩時に先頭を代わっていただく。
AM11:00 カタクリ峠着
この峠はその名の通りカタクリの花が咲くそうであるが、まだ見たことはない。
この積雪では3月後半にならないと開花しないだろうか。
先行者のトレースを辿るも、急斜面ではスノーシューが滑り思うように進まない。
photo by yuzu-san
6合目から7合目までは比較的緩やかな勾配
先を行く先行者に追いついてきた。
8合目手前の急斜面でふたたびトップを代わる。
と、その直後、木の根っこで右足を踏み抜いてしまい、体が完全に埋まってしまった。
雪に埋もれながらも脱出し、再び深雪のラッセルを続けようと登っていくと、
何故だか右足が深く埋まってしまう。
足元を見ると・・・「スノーシューがない!!」
先ほどの踏み抜いた箇所あたりだろうか。
後続の方にも手伝っていただき、「スノーシュー大捜索」
あいにく今日はスノーショベルを持参してこなかった。
ピッケルで探りを入れて、周辺を掘り出す。
10分近く探しだろうか、後続の方の予想通り木の根っこ近く深くに埋没していた。
感謝のお礼をし、スノーシューを装着。
その間に再び後続の方たちがトップへ。
ようやく急斜面を登り切った。ここを少し下れば真の谷8合目だ。
時計を見るとAM11:45
ここから斜面を下り、真の谷から山頂までの標高差200mもある。
この積雪ではとても時間的には無理だ。
さらに足の方も悲鳴をあげている。最初は調子よかった足の具合だったが、
昨日の今庄365でのスキーでの疲労が一気に押し寄せてきたのであろうか。
決断の時・・・・「 撤退!! 」
先行の方たちも同じ判断のようで少しの休憩後、下山されていった。
我はここで簡単な昼食を取ることに。
食事後、下山準備をし、ザックやウェアの雪を払う。
トレッキングポールやザックのストラップ、ウェアの撥水性が落ちて水が浸透した箇所が
ガシガシに凍ってしまっている。外気温・氷点下7度。
登り始めに着いた雪が融解し、どうやら凍ってしまったようだ。
これがテント泊りの山行なら一大事、雪山の怖さだ。
AM12:30 下山開始
苦労して登った急斜面、帰りはスライダーのごとく滑り落ちていく。
強風により創られる自然の造形
風の通り道
小さな雪庇も
数十分前に降りて行かれた先行者のあるべきトレースが風雪により早くも消えている。
尾根のジャンクションピークで方向を間違えないようにルートを確認。
杉林との境を下って行く。
そこに吹き込む風雪。
ここにも美しい紋様が出来上がっていた。
PM1:50 国道へ降り立った。下りは1時間20分ほどだ。
ここからのまた1時間半ほどの退屈な国道歩き。
PM2:55 山口ゲート到着。
下りの時間が思ったよりも早かったので、帰りは御在所岳の麓「湯の山温泉」へ。
国民宿舎「湯の山ロッジ」は日帰り入浴¥450で安い。しかも綺麗だ。
温泉の窓から見る風景も風情ある雪景色で、今日の疲れを癒す最高のひと時。
このひと時で本日の御池岳・ラッセル祭りは終了となった。
私のM的なラッセル好きにお付き合いいただいたゆずさん。
本当にありがとうございました。
今回は、積雪期の御池岳・テーブルランドを拝むことは出来なかったけれど、
これは次回の楽しみが出来たということにしよう。
まだ見ぬあの真っ白い雪原に思いを馳せながら・・・・
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