昨年のGW、槍ヶ岳をBCスキーで滑る計画を練っていた。
しかし決行日直前、北アルプス一帯は季節外れの大雪に見舞われ、
雪崩の危険性から各所で入山規制が出されたことにより
敢え無く槍ヶ岳BCスキーへの夢は持ち越されていた・・・
そして今年のGW、ついにそのリベンジする時がやってきた。
4月26日、新穂高温泉駐車場で落ち合ったのはMahitoさん。
昨年来よりヤマレコでの交流を続けている中で、
私と同じようなスタイルで山を楽しんでおられることで、
今回、初めてのセッションが実現した。
Mahitoさんはこの時期の槍ヶ岳BCスキーの経験もあり、
今回はルート取りや危険ポイントなど、教わることもあるだろう。
AM9:00 駐車場を出発、今日の目的地である槍平へ向けて歩き出す。
photo by Mahito-san
今回の計画は、槍ヶ岳の南西に位置する飛騨沢を登り、
初日は槍平にある冬季避難小屋にて泊り、翌日に槍ヶ岳山頂アタックして
飛騨沢を滑ろうという計画なのである。
この4月に完成したばかりの新穂高登山指導センターにて登山届を提出。
新穂高温泉をスタートして、しばらくは雪の無い林道をスキーを背負っての苦行の歩き。
冬季避難小屋泊まり予定なので、テントが入っていないザックだが、
それでもショベルやアイゼンなどの雪山装備+スキー板を背負うとザックの重量は25kgほどに。
林道半ばでようやく雪が繋がっている箇所まで来て、スキーを履くことで荷も軽くなった。
白出沢を過ぎ、ここからは林間を縫うようにシール登高でスキーを進める。
photo by Mahito-san
ここから先は左岸から合流する沢からのデブリが行き先を遮るように張り出しているそうだが、
今年はどうやら雪が少ないようで、スキーを外すこともあったがそれほど苦労することなくパス出来た。
沢沿いに冬ルートを辿り、標高を稼いでいく。
振り返るとそこには滝谷のドームが迫っていた。
PM3:30 槍平に到着すると、真っ白な雪面に数張のテント。
あまりの素敵なテント場と穏やかな風といい天気に、
冬季避難小屋泊まりを止めてツェルトを張ることにした。
スノーペグを持参しなかったが、
スキー板、ピッケルやスリングを利用してツェルトを張った。
スキー板で踏み均した雪面はマットを敷いてフルフラットの
最高&完璧な今宵の寝床が完成!!
夕食はMahitoさんと避難小屋内で乾杯!!のもと、始まった。
少しのお酒だったが、たくさんのBCスキーや山、カメラのお話で、楽しい時間が過ぎていく・・・
「お休み」の挨拶のあと、ツェルトへ戻る時に見上げた空には満天の星たち。
明日もいい天気になりそうだ。
夜中に首元から入る冷気に目を覚ます。
時計を見ると起床予定の午前2時。
飛騨沢の底から見上げる夜空にはこぼれ落ちそうなほどの星が、
穂高や槍の稜線に切り取られた狭い空間一杯に光り輝いていた。
グレゴリー・トリコニのザックの中からピープス30リットルのザックを引っ張り出し、
アイゼン、ピッケル、ヘルメットなどをそこに放り込み準備完了。
午前4時。
ヘッドライトを灯しながらのシール登高。
クトーを装着したスキーは雪面に良く食い込む。
しかし、直登する場合はクライミングサポートを使用しないとアキレス腱が辛いが
そうするとクトーが効かない。
次第に斜度がきつくなり、シールが滑り出す。
振り返ると笠ヶ岳の山頂がモルゲンロートに染まっていた。
photo by Mahito-san
徐々に勾配を増す斜面に直登を諦め、クライミングサポートをゼロにして
クトーを効かせながらジグを切って登っていく手段に切り替えた。
photo by Mahito-san
高度はなかなか稼げないが、凍った雪面にクトーが良く食い込み、
少しづつそして着実に登っていける。
photo by Mahito-san
次第に明るくなっていく飛騨沢。
そして影との境のラインが谷底を昇ってきて、ついに稜線越しにご来光を拝む。
なんとかシール&クトーで飛騨乗越まで乗り切った。
ここで初めて、槍の穂先が見える。
真っ白な雪をまとったその姿は本当に美しい。
槍ヶ岳山荘から見る穂先。
槍沢側も美しい
山頂直下の梯子の下には垂直とも見える氷雪した壁によじ登る人の姿が・・・・
スキーブーツにアイゼンで果たしてこの自分は登れるのだろうか。
最初に現れる雪面のトラバース。
アイゼンの爪が良く食い込むのがわかる。
事前に自宅で研ぎあげた爪が効果絶大だ。
核心部の垂直と思えた氷雪の斜面にやってきた。
つま先がわずかに掛かるステップが刻んであるが、
少しでも踏み外すと奈落の底へ落ちるのは確実だ。
アイゼンの両爪とピッケルのピックを確実に効かせ、慎重によじ登る。
そして最後の梯子を越えて、ついに槍ヶ岳山頂へ。
自身二度目の山頂だが、前回は完全なガスに展望はなかった。
だが今、目の前には全天を巡る青空と眩しく輝く穂高岳や双六岳、薬師岳の真っ白な頂き。
もう、なんにも言葉はいらない。
Mahitoさんとガッツリと握手し、その喜びを分かち合う。
いつまでもここに居たい・・・・
というか、降りたくない。
あの氷雪した壁を下りることを考えると恐ろしいのだ。
梯子を下りて、あの氷雪の壁の上にやってきた。
その瞬間、恐怖心が消え去り、全神経がピッケルを持つ手と、アイゼンの爪先へと注がれた。
無心の境地。
高所に居る感覚が私の神経を研ぎ澄ましたのだろうか。
あっという間に山荘まで戻ってきた。
後になって考えてみると、下りの時の氷雪斜面はかなり雪が緩んでいただろうと思う。
登りの時との前爪の刺さり具合が確実に違っていた。
我々が降りた後に、大勢の方が次々と山頂へアタックしていったが、
かなりの難度であったかもしれない。
飛騨乗越まで下りて、いよいよここから滑走開始だ。
すっかりと飛騨沢にも陽光が差し込み、斜面の雪もいい加減に緩んできた頃だ。
午後11時過ぎ、飛騨沢の大斜面へと吸い込まれるように滑り落ちていく。
photo by Mahito-san
最高のザラメ雪斜面を高速ターンで滑っていく。
笠ヶ岳を前方に眺めながらの贅沢なシーン。
この沢がBCスキーに人気なのも頷ける。
photo by Mahito-san
photo by Mahito-san
4時間近くかけて登った斜面を20分ほどで滑り下りてきた。
槍平でのんびりランチをしていると、
なんと先日乗鞍岳を一緒に滑ったヤナギさんと遭遇。
こんな偶然もあるもんだ。
ヤナギさん達はこの後、槍ヶ岳山荘まで登っていくという。
がんばれ!!
20kg近い装備を背負い、さらに飛騨沢を滑っていくが、
デブリゾーンや樹林帯でバランスを崩してはリカバリーの連続で、
体力の消耗も激しくなる。
photo by Mahito-san
photo by Mahito-san
さらにスキー板を担いでの左岸の登り返し。
Mahitoさんの的確なルートファインディングのおかげで
無事に夏道に復帰し、林道の雪をつなぎながら最後の滑り。
最後は再びスキー板を背負い、午後4時過ぎ新穂高温泉に着いたのであった。
photo by Mahito-san
初めてのテン泊(ツェルト泊)装備でのBCスキーだったが、
いろんな面で自分の可能性と能力を知り得た二日間であった。
そしてMahitoさんとの初めてのセッションであったが、
帰る頃には旧知の仲である想いであった。
Mahitoさん ありがとう
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