山岳読み物<ヤマケイ文庫編>
山に行けない雨の休日。
そんな日は、山に思いを馳せながら、
山にまつわる読み物を読むようになった今日この頃。
2回目は<ヤマケイ文庫>からの読み物を紹介したいと思います。
(お勧め度を星五つ満点で評価してます。あくまでも私の感想です。)
狼は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死 佐瀬 稔 ★★★★☆
前回の小説編で紹介しました「神々の山嶺」の主人公モデルとなった
「森田 勝」氏の生涯を描いたノンフィクション小説です。
その生涯はまさに山に賭けた一生だったと思います。
「金型工の職人の腕がありながら、長期の山行を優先するがために仕事を辞め、
日本の幾つもの岩場の初登攀を行い、いつかは海外の山へと夢を抱く。
しかし、転職を繰り返すものだから資金面にはいつも苦慮していたようで、
やっと巡ってきた南米アコンカグア遠征も、資金がなく諦めざるをえなかった。
エベレスト南西壁からの世界初登頂を目指す機会を手に入れたものの、
天候悪化等の理由により隊は南西壁からの登頂を断念し、一般ルートである南東壁からの
登頂へと計画を変更する。しかし、ここでも森田はあくまでも南西壁にこだわり、
同じ隊であった加藤保夫らは南東壁からの登頂に成功する。
その後、K2登山隊に参加するも、一次アタック隊から外れたことで、
自ら下山してしまう。しかし隊長の思惑は一次隊でルートを開き、二次隊により
登頂を成功させることだったという。そして実際、一次隊は失敗し、
森田のいない二次隊が登頂に成功したのであった。
ヨーロッパ三大北壁冬季初登頂を狙うも墜落により大怪我を負うが、
そこでも長谷川恒夫に先を越されてしまう。
そして最後はグランドジョラス北壁にて行方不明となりその後、発見される。」
日本山岳界の大スター、加藤保夫、長谷川恒夫らの影に隠れるかのように
その人物像はこの本を読むまであまり知りませんが、読んでいくうちに
山へ賭ける情熱、精神力を強烈に感じると同時に、人懐っこい人柄にも共感してしまいます。
なによりも自分の登山家としてのこだわりを強く固持し、信念を貫いたことに
心揺さぶられるものを感じてしまいます。
「神々の山嶺」と合わせて読んでみると面白いですね。
垂直の記憶 山野井康史 ★★★☆☆
このコラムの中では唯一現役のアルピニストで、今なお世界最高水準のクライマーによる
山野井氏自身の体験が生々しく描かれている一冊です。
クライマックスはギャチュン・カン北壁での雪崩遭難のシーンです。
その場を体験した筆者でしか描くことの出来ない壮絶な遭難状況と、
その後、妻である山野井妙子さんを必死の思いで救出に向かう場面が壮絶です。
ソロにこだわり、遠征費用も大半を自費で賄う登山家の生き様が
自身の言葉で語られているので、記されている言葉の重みが強く感じられます。
空飛ぶ山岳救助隊 羽根田治 ★★★★★
昭和50年代初め、山岳遭難救助といえば従来の人力に頼らざるを得ない状況であり、
時間、労力がかかるものであり遭難者の生存率もそれにより低いものであったといわれていました。
しかし、それまでの人力の救助方法に代わって、ヨーロッパでは主流となっていたスピードと輸送力に勝る
ヘリコプターによる救助方法を、民間航空会社「東邦航空」の社員でありながら独自にその技術を確率させ、
のちに東邦航空から別会社「トーホーエアレスキュー」を立ち上げ、そして自らもヘリに乗り込み
遭難者救助を行っていった篠原秋彦氏の生涯を描いたノンフィクション小説です。
フランス・エアロスパシアル社製・通称「ラマ」と呼ばれる
山岳地帯を得意とするヘリコプターを日本で唯一導入し、
県警や消防のヘリコプターが近寄れないような地形や岩場、
悪天候の雪山などで救助を行い、27年間に渡り2000人近い遭難者を救助し、
その生涯をヘリコプターレスキューに捧げた篠原氏。
へりから降ろしたワイヤーに吊り下げた状態で遭難者を救助・搬送することは
当時の航空法に引っかかるものですが、遭難者救助ということで特例を認めさせ、
装備や器具などの開発も行い、現在の山岳救助の基礎を作ったとも言われています。
漫画「岳」に登場する「燕レスキュー」の牧さんのモデルにもなっていると言われていますが、
まさに、北アルプスの山岳救助にはなくてはならない存在だったのです。
救助に賭ける想い、そしてその人柄は多くの山仲間に愛され、尊敬されていましたが、
惜しくも2002年1月、鹿島槍ヶ岳の遭難救助中の落下事故により亡くなられました。
山に登る者にとって、決して起こしたくはない山岳遭難ですが、
万一の際には最後の命綱ともなるヘリコプターレスキューの存在が非常に重要であり、
そのレスキューに生涯をささげた篠原氏の熱い想いがビンビンと感じられる一冊です。
単独行者アラインゲンガー 新・加藤文太郎伝 上・下 谷 甲州 ★★★☆☆
加藤文太郎といえば、新田次郎著「孤高の人」が有名で、私も学生時代に読みました。
しかし「孤高の人」は小説であり、一部事実と異なる箇所もありますが、
こちらの「単独行者」は山行記や文献をもとに描かれていて、
より実在の加藤文太郎を知るうえではよいかと思います。
新編・風雪のビヴァーク 松濤明 ★★☆☆☆
加藤文太郎と同じく、冬季の槍ヶ岳北鎌尾根にて遭難した松濤明の
手記、山行記をもとにした一冊で、なんといっても遭難時に書かれた遺書の
文面や内容、そしてその精神力に敬服してしまうのであります。
ふたりのアキラ 平塚晶人 ★★★☆☆
タイトル「ふたりのアキラ」とは。
この疑問は最初に本を手に取った時に感じる必然の流れです。
この小説は、ふたりのアキラという名の登山家を愛した女性と
筆者との間で交わされた手紙をまとめた一冊なのです。
そのふたりのうちのひとりは、前述の松濤明氏、
そしてもうひとりは戦後の登山界の発展に大きく貢献し
アルパインガイド協会を設立した奥山章氏のことなのです。
そしてこの女性こそ、井上靖氏の小説「氷壁」のモデルとも言われる
芳田美枝子(奥山美枝子 奥山章氏の妻)氏であり、
女性目線からみた二人の登山家の姿を描いてるので、
ふたりのアキラの側面が見えて楽しく読めるのでした。
K2に憑かれた男たち 本田靖春 ★★☆☆☆
前述の「狼は帰らず」に登場する森田勝氏も参加したK2登山隊の
遠征準備、資金集め、遠征・ルート工作、そして登頂までを描いた記録であり、
ここでも「森田勝の造反」が伺いしれます。
エベレストなどのヒマラヤと違い、K2はその遥か西のカラコルム地方にあり、
当時はまだまだ未開の状態での遠征準備、アプローチ、ルート工作に
当時のK2登山隊の苦労と困難が描かれています。
空へ「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 ジョン クラワカー著 海津正彦訳 ★★★☆☆
日本人登山家・難波康子さんが山頂付近で遭難死されたことで、
日本でも大きく報道で取り上げられたエベレスト大量遭難死と、
そこへ至るまでの経過がインタビュー形式で描かれています。
今では当たり前となっているエベレストを初めとする公募型登山隊。
この遭難事故当時は、それもまだ珍しく事故後一気に注目を浴びることとなりましたが、
この事故をきっかけに公募登山隊も大きく変わったといわれています。
なによりも凄いのが、8000mを越えるデスゾーンでの登攀シーンと、急変する天候、
そしてゲストを救助するガイドたちの姿が克明に描かれており、
ここでも漫画「岳」のラストシーンを思い出してしまうのでした。
(噂では、「岳」はこの遭難シーンを参考にしたとか・・・)
エベレストという高所登山の生と死をリアルに感じてしまう一冊です。
残された山靴 佐瀬 稔 ★★☆☆☆
なんで山登るねん 高田直樹 ★★☆☆☆
ドキュメント滑落遭難 羽根田治 ★★☆☆☆
山へ生きる全ての情熱をかけた登山家の生き様を感じられるこれらの本を
次々と読んでいくと、同じ時代に生きた登山家同士のつながりやライバル心などが
伺い知れて、面白いものでした。
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